「料理は人間の本能をくすぐる最大の芸術である」(美食アカデミー初代主宰:鹿賀丈史)

今夜(10月26日)、伝説の料理番組「料理の鉄人」が「アイアンシェフ」として13年ぶりにレギュラー復活!(初回のみ19時~20時54分。2回目以降は毎週金曜19時57分~/全国フジテレビ系列) 巷では「オリーブの鉄人はもこみちで~」とか「川越シェフはなんの鉄人?スマイル?」なんてことで早くも話題が持ちきりです。


「料理の鉄人」とは、主宰から発表される「テーマ食材」を使った料理を鉄人と挑戦者それぞれが制限時間1時間で完成させ、その味を競うという料理バトル。鹿賀主宰の華麗な振る舞いと名台詞の数々、鉄人の奇抜なコスチューム、福井アナの軽快な実況、そして料理記者歴40年・岸朝子の辛口コメントなども記憶に鮮明なこのコンテンツは、23時台にもかかわらず1993年~99年までの6年間の平均視聴率が14.8%を記録。その後海外に番組フォーマットが輸出され、それがまた人気番組になっている、なんてことはご存知の方も多いことと思います。
でも、最後のスペシャル放送から早10年以上が経過し、一度も見たことがない、なんて人もいるハズ。
そこで、「アイアンシェフ」の注目点(何が継承され、どこが変わったのか)を探るためにも、今夜の復活を前にあえて本家「料理の鉄人」を振り返ってみたいと思います。


【新主宰・玉木宏は3代目。
謎の組織「美食アカデミー」とは?】

主宰・鹿賀丈史が、冒頭でも記した「料理は人間の本能をくすぐる最大の芸術である」という信念を追求し実証するべく組織したのが『美食アカデミー』。現在、テレビ朝日の「お願い!ランキング」にも「美食アカデミー」が存在しますが、本家本元はこちらです。もっとも今回は「アイアンシェフ諮問機関」なるものが設けられているため、美食アカデミーとは別な組織であることも予想されます。

今回の「アイアンシェフ」の目玉は新主宰・玉木宏。
鹿賀丈史はどこにいった? と思った方……実は番組上、鹿賀主宰は10年前に亡くなったことになっています。そして、主宰には2代目がいて、玉木宏は3代目に当たるのです。

2002年1月の特番で「主宰の鹿賀がフグの毒に当たって亡くなったため、その甥が後を引き継いだ」という設定で2代目主宰として登場したのが本木雅弘。まさか、モッくんまで亡くなった設定に!? 個人的には亡くなったんじゃなくて無かったことにされていないかが心配です。

また、主宰における注目点はなんと言っても決め台詞。初代主宰には「私の記憶が確かならば~」、2代目には「私の願いが叶うならば~」というものがありました。3代目主宰がどんな台詞を発し、そして何をかじってキッチンスタジアムに登場するのかも見逃せません。

ちなみにこのキッチンスタジアム、前作でのセットイメージは、英国王室御用達のロンドン・ハロッズの食品売り場。

《私は先祖から継承し、増やしてきた私財を投じて「食」を芸術の域にまで高めるための闘技場「キッチンスタジアム」を作り上げたのだった》とは番組の歴史を編纂した『料理の鉄人大全』に記された主宰の言葉です。
企画段階での番組タイトルが「竃(かまど)の鉄人」であったことを裏付けるように、番組の売りでもあったのが強い火力。その火力を実現するため、当時河田町にあったフジテレビのスタジオに専用のガス管を引き、あまりの火力の強さに、番組開始当時は毎回消防署が立ち会っていたそうです。

今回のキッチンスタジアムは金・黒・赤を中心に彩られた「和」モチーフでありながらも、古代ローマを想起させる彫刻があったりとエキゾチックの極み。そんなセットのこだわりも楽しんでみましょう。


【道場、陳、坂井だけじゃない。
鉄人は7人いた】

「料理の鉄人」を語る上で欠かせないのは、「蘇るがいい!アイアンシェフ!」でおなじみの鉄人たち。和の鉄人・道場六三郎、中華の鉄人・陳建一、フレンチの鉄人・坂井宏行、の3人を思い浮かべる方が多いと思いますが、他にも鉄人は4人、歴代で計7人が蘇っています。登場順に振り返っていきましょう。

○初代フレンチの鉄人・石鍋裕(通算7勝1敗)
コスチュームカラーはグリーン。レギュラー登場はわずか3ヶ月だけのため影は薄いが、記念すべき第一回放送でデビューを果たしたのがこの石鍋。引退後は番組初の「名誉鉄人」の座についた。


○初代和の鉄人・道場六三郎(通算33勝5敗1分)
コスチュームカラーはブルー。実働わずか3ヶ月の石鍋をのぞけば、その勝率84%は全鉄人の中で最高値。かのグルメ漫画『美味しんぼ』にも岸朝子とともに登場し(46巻)、見事なスッポン料理を披露している。

○中華の鉄人・陳建一(通算68勝23敗3分)
コスチュームカラーはイエロー。番組開始から最後まで鉄人の座を守り抜いたのはこの陳建一のみ。四川料理の神様・陳建民の息子としてもおなじみ。
負け数は多いものの、連勝記録は鉄人最長の14を誇るなど勝負強い一面も。

○2代目フレンチの鉄人・坂井宏行(通算70勝16敗1分)
コスチュームカラーはレッド。通称ムッシュ。陳建一が番組降板を考えた際に真っ先に電話をかけ「陳さんが辞めるんなら俺も辞める」と言って翻意させるなど、実は熱い男。フレンチの鉄人なのに、フレンチ食材オマールがテーマだと必ず負けていた。

○2代目和の鉄人・中村孝明(通算24勝11敗1分)
コスチュームカラーはパープル。キャッチコピーは「料理界の諸葛コウメイ」。道場六三郎とはゴルフ仲間の縁もあり、2代目に指名される。名誉鉄人になった後に挑戦者として出場し、3代目和の鉄人・森本と対戦、勝利している。

○イタリアンの鉄人・神戸勝彦(通算15勝7敗1分)
コスチュームはイタリア国旗がモチーフ。通称「パスタのプリンス」。鉄人の中で唯一、デビュー戦を飾れなかった。「本来なら第一回から登場するはずだったが、主宰がイタリアへ修行に行かせた末、満を持して登場」という設定だったが、結局最後まで肖像画は描かれなかった。

○3代目和の鉄人・森本正治(通算17勝8敗1分)
コスチュームカラーはシルバー。ロバート・デ・ニーロらとの共同経営でニューヨークにオープンした日本料理レストラン「NOBU」の開店に携わったことから「料理界の織田信長」のキャッチコピーに。アメリカ版料理の鉄人「Iron Chef America」でも鉄人を務めた。

今回、まだ鉄人の名は明らかにされていませんが、最初の挑戦者は、かつての和の鉄人・道場六三郎の愛弟子である宮永賢一と、おなじくかつての中華の鉄人・陳建一の息子である陳建太郎の2人。
新旧鉄人の代理戦争としては申し分ない挑戦者といえるでしょう。新鉄人が誰なのかも多いに注目したいところです。


【実況はボクシング調、レポーターはF1調。盛り上げ隊も見逃すな!】
鉄人と料理人たちの戦いを盛り上げたのは、「フクイさんフクイさん」と呼びかける冷蔵庫前レポーターと、それに応え、解説役の服部先生とのコンビで軽快な実況を繰り広げた福井アナ、というトライアングル。
番組スタッフから「(実況は)F1調でやってください」とオーダーされたにもかかわらず、これは鉄人と料理人との1対1の戦いだ、という判断から「ボクシング調ならOK」と、福井アナ自ら提案し、変更させたといいます。
一方でその「F1調」が残ったのがレポーター。「F1のピットレポート」の雰囲気で料理人の間を駆け回り、臨場感を演出したのがレポーター役の太田真一郎。てっきりフジのアナウンサーかと思っていたら、本職はナレーターなんだそうです。

今回の実況担当は「めちゃイケ」などでもおなじみの佐野瑞樹アナウンサー。安田記念やフェブラリーステークスなどG1レースで鍛えた「競馬実況スタイル」に注目しましょう。また、レポーターはタレント・宮川大輔と三田友梨佳(フジテレビアナウンサー)。あの甲高いレポートが聞けないのはちょっと残念ですが、解説にはおなじみ服部幸應・服部栄養専門学校校長が新シリーズでも名を連ねているのが安心材料です。

ちなみにこの服部先生。実は解説だけじゃなく、2度「料理人」として鉄人に勝負を挑んでいるんです。さすがは4歳にしてリンゴの皮むきを命じられ、6歳でアジを3枚におろし、学生時代には30カ国を食べ歩いた料理界のサラブレット。今シリーズでも、解説だけじゃなく「料理人」としての登場に期待です。
でも、前作終了後に調理師免許持ってないことバレちゃったから、無理かなぁ……。



【料理の新潮流を見逃すな!】
それまでどこも似たりよったりだった料理番組の常識を変えよう、と始まったのが「料理の鉄人」。
実際、この番組によって料理人のステータスはあがり、新しい調理法やそれまで見たこともなかった食材や調味料が世に出回りました。その代表例がバルサミコ酢。
《バルサミコ酢ってプロの料理人にもあまり知られていなかったんですが、「料理の鉄人」で使うようになってから、毎年350%ずつ売り上げが伸びました。今じゃ、たいていのスーパーで売ってるでしょ? でもあんなの、本場のイタリアへ行っても、コンビニではなかなか売ってませんよ》とは服部先生の言葉(『料理の鉄人大全』より)

10年の時を経て、料理界がどのように進化を遂げたのかを目撃できるのも、この番組の大きな見どころです。


【総額8億4335万4407円! 採算度外視だからこそ実現できる夢の料理】
「料理の鉄人」6年間の歴史で繰り広げられた戦いは全308戦。料理数は1万4113皿におよび、その全てを食べた主宰の総カロリー数は238万9995キロカロリー!
使用した素材はフォアグラ893個、タイ754尾、伊勢エビ827尾、松茸964本、卵593個、トリュフ1489個、キャビア4651グラム、フカヒレ784枚……その膨大な食材すべてをあわせた金額は8億4335万4407円だったといいます。

バブル崩壊後の93年に番組が始まり、まさに平成不況真っ只中の6年間でのこの金額は驚くべき数字です。しかし、この豪華さこそが「料理の鉄人」が果たした功績であると、解説の服部先生は語ります。
《調理業界にあれほど大きな影響を与えた番組は、他にありません。元来保守的な業界です。壁をぶち破っていく人が、ほとんどいない。批判的な人も多いと思いますが、少なくとも確実に二つの影響を与えているはずです。それは、鉄人の料理を通じて、一つはジャンルを超えた新しい食材の可能性を示すということができたということ。もう一つは、キッチンスタジアムでは、採算を度外視して、好きな材料を好きなだけ使って料理を作るということを具現化したことです。プロだからこそ、料理人は絶対にしたい経験です。(中略)僕はよく、挑戦者に「ふだん着じゃなく、パリコレ用の料理を作ってください!」ってお願いするんですが、料理人として、せひ一度はこういう世界を体験してほしい》(『料理の鉄人大全』より)

料理人の潜在意識にあった壁をぶち破り、世の中の暗い世相も吹き飛ばした豪華絢爛な一夜の夢。それこそが人気番組たる所以だったのかもしれません。今また不景気にあえぐ日本においての番組復活もうなづけます。


と、駆け足で「料理の鉄人」を振り返ってみましたが、正直まだまだ語り足りません。でもその欲求は新作「アイアンシェフ」に託すことにしましょう。というわけで、「アイアンシェフ」今夜19時いよいよ開演です。
最後に皆さんご唱和ください。

「アレ・キュイジーヌ!」(……って玉木宏言うのかな?)
(オグマナオト)